ホラふき和尚

むかしむかし、あるお寺に、村人たちから『ホラふき和尚』と呼ばれているお坊さんがいました。

この和尚さん、あんまりホラばかりふいているので、村人たちは和尚さんの言う事を全く信用していません。

ある日の事、和尚さんは村人たちをおどろかせてやろうと思い、お寺の門前にある大きな池のほとりに、こっそりとこんな立て札をたてました。

《明日のお昼、この池から竜が天に登るであろう。池の主の竜より》

さあ、この立て札を見た村人たちはびっくりです。

むかしからこの池には竜が住んでいると言われているので、みんなはこの立て札を信じました。

ですから次の日の朝には、池の周りは黒山の人だかりです。

それを見て、和尚さんはうれしそうに笑いました。

「あっはははは。村の者たちめ、わしのいたずらに、まんまとひっかかったわい。さて、お昼になったら出ていって、わしの仕業だと話してやろう。みんなのあきれた顔が、見ものじゃわい」

やがて、お昼が近づいてきました。

「よし、そろそろ行くとするか」

和尚さんが出かけようとすると、空がにわかに曇って暗くなってきました。

そして目の前の池から、なんと本物の竜が姿を現して、銀色のうろこを光らせながら黒い雲の中へ消えていったのです。

村人たちは驚きましたが、もっと驚いたのはいたずらをした和尚さんです。

「なっ、なんと! まさか本当に竜がいるとは・・・」

しばらく呆然としていた和尚さんですが、すぐに村人たちの前に駆け出すと大声で言いました。

「おーい、よく聞け! あの立て札はな、実はわしが立てたんじゃ。わしが立てたおかげで、竜が現れたんじゃ!」

けれども、村人たちは、

「ほれ、またいつもの和尚のホラが始まった。竜が現れたのを、自分の手柄にしよるぞ」

「ほんに、しようのない和尚じゃ」

と、誰も信じなかったという事です。

おしまい

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