たぬきと水泳教室
とてもとても暑い日です。お日さま村のじんべいさんは、きょうもめげずに畑仕事です。
「さて、ひとやすみするか。」 と、言って家の中に入ると、
「トントン」とじんべいさんの家の戸をたたく音がします。じんべいさんが、だれが来たのかなあと思っていると、
たぬき:「じんちゃーん、オラだよ、オラ。花火をいっしょに見たべ。おらあたぬきだあだよう。」
じんべい:「なーんだ。おらあたぬ きだあ君か。きょうはどうした?」
たぬき:「じんちゃーん、山の中のプールに入らないか? とっても気持ちええぞ。」
じんべい:「うん、じゃあ行くよ。いま、水着とタオルを持っていくから。」
たぬき:「水着なんていらないよ。オラ、そのまま入っちゃうもん。」
じんべい:「ちがう、ちがう。おらあたぬきだあ君のじゃなくて、ボクの!」
たぬき:「早くしてけれー。暑いんだから。」
ようやくしたくができて、二人は山の真ん中のプールにつきました。そこには、キツネやら、ウサギが泳いでいます。
「あっ、人間が来たわよ。」
「本当だ、本当だ、かくれよう。」そう言って、動物たちは、かくれてしまいました。
プールがしいんとなったのを見て、おらあたぬ きだあが言いました。
「どうしたの? この人は、やさしい人間だよ。じんちゃんっていうんだ。」
こう言うと、ウサギたちは顔をだしました。
「なんか、やさしそうね。」
びっくりしたことに、動物たちは、言葉をしゃべれるのです。
じんべいさんは、プールサイドでぼーっと立っていましたが、みんな、犬かきで泳いでいることがわかりました。
そして、じんべいさんは、思いつきました。
みんなに泳ぎ方を教えてやろうというのです。クロールまではいきませんが、けのびや、せうきなどです。そして、大声で、
「おうい、みんなあ、水泳教室を始めるぞ。」すると、ウサギをはじめ、キツネ、リスなどが集まってきました。
「こうして、息を止めて、顔を水に入れてごらん。」と、言って、お手本をしてみせました。すると、ほかのみんなも、まねをしました。
「つぎは、体全体の力をぬいて、顔を水につけてみて。それに、バタバタを足でやってごらん。すると、おどろいたことに、みんなじょうたつが速いのです。そして、せうき、けのび、ジャンプをマスターし、水泳教室は終わりになりました。
最後に、けのびレースやジャンプレースをしてじんべいさんは、帰ろうとしました。すると、みんながよびとめました。ウサギが、その “血を止める草” を持ってきて、じんべいさんにわたしました。
ウサギ:「じんちゃん、まって。お礼に血を止める草をあげましょう。」
動物たち:「また来るね。」
「約束だべな。じんちゃん。」
「あっ、それから、じんちゃん。ここは、秋になると、おんせんになるんだべ。」
「うん、ありがとう。」と、言って、じんべいさんは、帰っていきました。
そう言ってからも、たびたびおらあたぬきだあは、じんちゃんの家に遊びに来たそうです。秋も、だんだん終わって、冬になるころ、
「トントン」と戸をたたく音がします。
「じんちゃーん、おんせん行くべ。」じんべいさんは、タオルを用意して、おんせんに行くじゅんびをしました。やっとおんせんにつきました。あのときのウサギやリスもいっしょです。
「あっ、じんちゃんだ、じんちゃんだ。遊ぼ、遊ぼー。」と、言ってきました。じんべいさんたちは、楽しく遊びました。そして、体がぽかぽかになって帰ろうとすると、おらあたぬきだあが、
「じんちゃん、オラは、とうみんするべさ。だから、春またあおうべな。バイバーイ。」と、言いました。
「じゃあね。バイバーイ。また春に、あおうね。」と、言ってじんべいさんは、帰っていきました。
跳びっこ
昔々、ノミと、バッタと、おもちゃのカエルとが、だれが高く跳べるか
ということで、自慢し合いました。
「それは、ぼくが高く跳べるさ。」と、ノミが言いました。
「いやいや、ぼくのほうが高く跳べるさ。」と、蝗が負けずに言いました。
「あなたがたより、ぼくのほうが高く跳べますよ。」
おもちゃの蛙も、そう言いました。
「ぼくが、高く跳べる。」
「いや、ぼくだ。」
と、みんなが言うので、きりがありません。
「それなら、誰が一番跳べるか、跳びっこをしてみようじゃないか」
と言うことに決まりました。
「できるだけ大勢の人を呼んでみてもらったほうがいい。」とノミが言いますと、
「ああ、いいとも。」と、バッタもカエルも賛成しました。
この話を王さまもお聞きになって、
「わしも見に行こう。」と、言ったのです。
そればかりか、
「せっかく高く跳んでも、褒美がなくてはつまらない。いちばん高く跳んだものに、わしの娘をお嫁さんにあげるとしよう。」と言うことになったのです。
さあ、跳びっこ競争は、大変な評判になりました。
その日になると見物人がたくさん集まりました。
まっさきに出て来たのは、ノミくんでした。
気取った様子で、四方に向かってお辞儀をしています。
次に、バッタが出ました。
おしゃれな草色の服を着て、とてもきれいでした。
最後には、カエルが出てきました。
カエルは飛び出た目玉を、クルクルクルクル回します。
いよいよ、跳びっこが始まりました。
ところがノミが、あんまり高く跳んだので、だれもその行方がわからなくなってしま いました。
それで、
「跳ばなかったのじゃないか?」そんなことを、言うものもありました。
バッタは、王さまの顔に跳びつきました。
王さまは、怒ってしまいました。
おもちゃのカエルはピョンと跳ねて、お姫さまの膝に上がりました。
「キャアーー!」
お姫さまは驚いて立ち上がったので、膝のカエルはコロリと転げ落ちました。
これで跳びっこは、勝負なしでおしまいになりました。