がんばれ青ちゃん
ぼくは、風。春には、あたたかい春風。夏には、強い台風。秋には、すずしい風。冬には、冷たい北風。きょうは、北風になって、ヒュルルンと言いながら、大好きな野原に、走っていったんだ。
ぼくは、野原をかけまわった。ちょうど、野原のまん中あたり。青ちゃんを見つけた。青ちゃんって、まだ、出たばっかりのお花の芽なんだけど……おっきくなったら、青い花がさくんだ。だから、早く大きくなれるように、いつも、おうえんしてあげるんだ。
「こんにちは、青ちゃん。」
「こんにちは、風さん。」
「青ちゃん、きょうは、なにを見ているの?」
「川!」と、お話をする。
青ちゃんって、いっつもなにかをながめてて、そのお話、してくれるんだ。おもしろいでしょ。ハッハッハッ。
青ちゃんは、まだ、小さいから、ここを通るときは、そっと行く。そうじゃないと、とばされちゃうもんね。春には、本葉が出た。ぼくは、必死になって、
「がんばれ、がんばれ。」と、言う。
つゆには、雨水を、いっぱいあびて、夏には、暑さに負けず、上へのびて、秋にも、冬にも……「がんばれ!がんばれ!さむさや、暑さに負けるな!がんばれー。」
いつもおうえんして、いつも見守って。大きくなって、青色の、きれいな、きれいな花がさくのかと思うと、うれしくってたまらない。だから、ぼくは、どんなときでも、青ちゃんのことを思っている。
「がんばれ。もうちょっと。」だれかにふまれそうになると、
「ビューン。ビュルルン。」と、ふいて、そのこを、おいはらう。たおれたりすると、かわいそうだけど、青ちゃんをふまないで、とらないで。つぎの春。つぼみが出た。「ヤッター。」ぼくは、かん声をあげて、走りまわった。つぎの日。つぼみが少しふくらんで、先のほうに青い花びらが、ちょこんと見えた。
「もうちょっと。」うれしくってたまらない。楽しくってたまらない。
「花がさいたら、みんなでパーティーをしよう。それで、みんなで、おめでとうって言ってあげるんだ。」と、ぼくは、はりきってみんなに知らせた。この様子だと、あと、二、三日で花がさく。
ぼくは、もう、まちどおしくて、たったの二、三日が、とおく感じられた。そして、とうとう花がさいた。
「きれい。」
「おめでとう。」
「すてき。」と、みんなが、青ちゃんに言った。ぼくもとっさに、
「すてきな花だね。」と、言った。そしたら、
「ありがとう。」と、返事がかえってきた。
みんなが、楽しく毎日を過ごした。しかし、ある日、家を建てるための、おはらいがされた。
「家が建つんだ。」そう思うと、むねがドキドキする。
「たいへん! 青ちゃんが。」ぼくは、まっ青になった。どうすれば……。
工事が始まる前日。とってもこわそうな工事の会社の人がきた。
「おっと。」と、工事のおじさんの声がきこえて、ふと見ると、その足元に、青ちゃんがいた。
「こんなきれいな花があるなんて、もう少しでふんでたよ。」ぼくは、
「こわそうでも、心はやさしいな。」と、思った。そして、おじさんは、青ちゃんを根っこから引きぬき、ちょうど、庭のあたりにうめてくれた。
「ここなら安全だろう。」ぼくは、ほっとした。
いま、青ちゃんは、家の人と仲よくしている。
ニックのにんじん
すすき原っぱに、緑色の屋根の小さな家がありました。その家には、元気いっぱいのうさぎの子、ニックが、お父さんとお母さんと住んでいました。
ニックは、自分の畑を持っていました。畑には、たくさんの野菜が植えてあって、毎日、ニックは野菜たちに会うのをとても楽しみにしていました。
今日もニックは、かごと赤いじょうろを持って、野菜畑に出かけます。そして、
「おはよう。今日も元気?」
「あっ、もう少しで真っ赤になるね。」などと野菜たちに話しかけながら水をやり、取ってかごに入れました。
最後のにんじんのところに来たとき、ニックは言いました。
「やあ。取ってもいいのはどれ?」すると、三本のにんじんの葉っぱが、そよそよとゆれました。
「そうか。わかったぞ。」ニックはそれを見て、にこっと笑ってから、ていねいにていねいにひきぬきました。
「わあ。太くってきれいな色。」ニックはにんじんの土をはらい、かごに入れました。二本目のにんじんもかごに入れると、最後のにんじんです。
「ていねいに、ていねいに……。あれ!!」にんじんをひきぬいたニックはびっくりぎょうてん。なぜって、にんじんの下半分がなくなっていたんです。
「どうしてだろう……。」にんじんに水をあげると、ニックは家に入りました。朝ごはんを食べているあいだも、ニックはそのにんじんのことが気になってしかたがありませんでした。
「ニック、どうしたんだ?」
「いつもの元気はどこへいっちゃったのかしら。」
お父さんとお母さんが心配してくれているけれど、ニックはぼんやりと、
「ううん、なんでもない。」と、言うだけでした。
もう一度野菜畑に行ってみたけれど、取れるのは半分のにんじんばかり。
「ぼくのぬき方が悪いのかなあ。」にんじんのさきっぽを、土をかきだしてさがしました。するととつぜん、ゴツン!! となにかにぶつかりました。
「あいたたた……。なんだなんだ。」それは、木のドアでした。下のほうが土でうずもれていたので、かきだしました。そして、
「トントン。」ドアをたたきました。
「だれかいないのかなあ。」もう一回たたいてみました。
「だれもいないよ、きっと。」ニックがあきらめたとき、
「はあい。」中でかわいい声がしました。
ニックはドキッとしました。とびらがあき、中からかわいいもぐらの女の子が顔を出しました。
「どなた?」
「ぼ、ぼくうさぎのニック。」
「わたしはもぐらのもぐちゃんよ。」
「あの、ぼ、ぼくの、に、に、にんじん知りま……。」
「そこに立ってないで、入って入って。」
もぐらの家の天井を見上げたとき、ニックはびっくりしました。なぜって、にんじんのさきっぽが天井からたくさんつきでていたんです。
「これ、ぼくのにんじんだ。」ニックは言いました。
「ニックちゃんのにんじんだったの。ごめんなさい。にんじんがあんまりおいしそうだったから、病気のお母さんに食べさせていたのよ。」
「そうだったの。それなら、ぼくのにんじん取っていいよ。お母さん早く治るといいね。」
「ありがとう。うれしいなあ。あっ、そうだ。いま、にんじんのパイができるところだから食べてって。」それは、とってもおいしいパイでした。
「おいしーい。もぐちゃんって、お料理上手だね。」
「ありがとうニックちゃん。これからもときどき遊びに来てね。」
それからも、にんじんは、ときどき、下半分がないときもあったけれど、ニックは、なんとなくうれしい気持ちになりました。
お母さんが元気になると、もぐちゃんは、ニックのにんじんでおやつを作って、ニックを待っていてくれるようになりました。