ねずみ色のうさぎ

「いち、にい、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう……あれ? 一こたりない。」かなちゃんは、色ちがいの、そっくりなうさぎのぬいぐるみをかぞえます。しかし、いくらかぞえても、十あるはずのうさぎのぬいぐるみが、九しかありません。

「おっかしいなー。」かなちゃんは、また、かぞえなおします。しかし、なんどかぞえても、一ぴきたりません。ピンク、赤、黄色、オレンジ、緑、黄緑、茶色、青、水色―・・・。ねずみ色がありません。それは、かなちゃんの一番のおきにいりなのです。なぜかというと、かなちゃんは、ねずみ色とうさぎが大好きだからです。かなちゃんは大声で、

「ママーァ! ねずみ色のうさちゃんはあ。」と言いました。ママからの返事はありません。

かなちゃんは思い出しました。ママはゆうべから、カゼをひいてねこんでいたのです。

「そういえば、おなかすいたなあ。朝ごはんまだだった。」と言いました。かなちゃんは、トコトコと台所へ歩いていきました。すると、そこには、ぬいぐるみのはずのねずみ色のうさぎがいたのです。いつもの何倍も大きいねずみ色のうさぎが、りょうりを作っているのです。かなちゃんは、びっくりして、ドアのかげにかくれてようすを見ていました。

あまりにもねっしんに見ていたので、かなちゃんは、ドアをおしてとび出してしまいました。うさぎに見つめられて、思わずかなちゃんは、立ちすくんでしまいました。うさぎはやさしい顔をして、

「こわがらなくてもいいのよ。」と言いました。かなちゃんは、つぎのことばを聞いて安心しました。

「私ねーェ。ママにたのまれて、ママのかわりをしにきたの。ママいまカゼひいてるでしょ。ママねェ、夜おきてきて、私にたのんでいったのよ。『朝ごはんのこと、よろしくおねがいします。』って。」

「ふ~ん。」

「だから、私ね、うでによりをかけて、ニンジンりょうりをつくってるの。」

「ふ~ん。でも、あたし、ニンジンきらいなの。」かなちゃんは、あちこちにおいてあるニンジンの山を見て言いました。うさぎの大きなぬいぐるみは、

「あらら。それはこまったわ。」とわざとらしく言いました。

「でもね。かなちゃん、きょうの朝ごはんはニンジンをつかうって、もう、きめちゃったの。とってもおいしいのよ。ニンジンがとってもあまくかんじるわ。楽しみにしていてネ!」

うさぎはそう言うと、またりょうりをしはじめました。かなちゃんはそのようすをイスにすわってじっと見ていました。

三十分ぐらいすると、ほんのりいいかおりのニンジンりょうりがつぎつぎとテーブルにならびました。

「これぜーんぶニンジンが入ってるのよ。そんなふうには見えないでしょう。」

うさぎは少しとくいげに言いました。かなちゃんは、おそるおそる、ニンジンのにっころがしをおはしでつかみました。そして、いっきに口にほうりこみました。

あれ? あんなにまずかったニンジンが、おかしを食べてるみたいにとってもおいしいのです。かなちゃんは、パクパクとニンジンりょうりを食べました。ニンジン入りのごはんなんて、三ばいもおかわりしました。けれど、なかなかおなかは、いっぱいになりません。それに気がつくとかなちゃんは、おふとんの中にいました。かなちゃんは、ゆめを見ていたのです。かなちゃんは、あわててうさぎの数をかぞえてみます。

「いち、にい、さん、し、ご、ろく、しち、はち、きゅう、じゅう。」うさぎのぬいぐるみは、ちゃんと十こあります。

かなちゃんが台所に行くと、そこにいたのは、うさぎではなく、いつものママでした。

ママはかなちゃんに気がつくと、

「かなちゃん。カゼなおったのね。」と言い、しゃがんで、おでこに手をあてました。なんと、カゼをひいていたのはママではなく、自分だったのです。かなちゃんは、

「あたし、ニンジン大好きになったんだよ!」と、とびっきりの笑顔で言いました。

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