冬の風

「みさと、おねがい、おふろわかして。」

お母さんは、お料理を作っていて、手が離せないようです。

みさとは、

「うん、いいよ。」と元気よく言い、おふろ場へ行きました。そして、蛇口をひねって、お湯がたまるまで待つだけです。

「そろそろいいかな。」みさとはお湯がたまったか見にいきました。それから、おふろ場のドアを開けようとしたときです。

「ああ、いいきもち。」おふろの中から声がします。

「あれ、おかしいなあ。」みさとは、思いました。だって、みさとの家族は三人でお母さんは、台所にいるし、お父さんは、まだ仕事から帰ってきません。ほかにだれがいるのでしょうか。みさとは、おふろのドアを、ばっと開けました。そして、だれがいるか見てみると、そこには赤いけむりのようなかたまりがありました。

あぜんとしながら、

「あなただれ。」

と聞くと、その赤いけむりのようなものは、

「ぼくは、冬の風。」と言いました。

「なぜ、わたしの家のおふろに入ってるの。」と聞くと、冬の風はモジモジしながら言いました。

「あのね。ぼくいまから春の風になるんだ。ねぇこのごろ風があったかくなってるだろ。」

「うん。」 とうなずくと、

「ぼくのなかまが春の風になったんだよ。その春の風になるためには、おふろに入ってじゅうぶんあたたまらないといけないんだ。そのためにおふろに入ろうと思ったら、きみの家にちょうどお湯がたまってたので入ってたというわけさ。もう、そろそろ行かなくちゃ」

そう言うと風は、あっという間に消えてしまいました。そのあと、お庭にうえていたチューリップの花がぱっときれいにさきました。

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